本コラムでは、持続可能な循環型社会に向けた消費動向について、京都大学地球環境学堂准教授の浅利美鈴氏にご解説いただきます。
資源循環は、持続可能な社会の構築に向けた重要な要件になっています。環境問題では、2050年の炭素中立社会の実現という大きな目標がありますが、その中でも、資源循環は大変重要な位置づけを担っています。資源の多くは、世界中の人が、様々な形で日々消費している訳ですが、いまや世界中で、大量生産・大量消費・大量廃棄するようになり、様々な形で歪が生じています。そのような中、サステナブルな消費スタイルへの転換を含む循環経済の必要性が世界中の共有課題として知られるところとなりました。筆者は、学生のころより四半世紀、ごみ研究を続けてきました。また、ライフワークとして、環境教育・啓発活動にも取り組んできました。そのような視点から、持続可能な循環型社会に向けた消費動向について考えてみたいと思います。
私の所属する研究チームでは、私の恩師にあたる高月紘先生らが、1980年に京都市と始めた「家庭ごみ細組成調査」を毎年実施しています。従って、40年以上にわたるデータが蓄積されています。この調査では、家庭ごみを、プラスチックや紙、木、金属といった素材だけでなく、詳細な用途にも着目し、最終的に約400種類に分類しています。それをもとに、より具体的な3R(リデュース・リユース・リサイクル)の対策を検討・提言したり、ごみから見た暮らしの変化を考察したりしています。
例えば、約40年の経年変化を見ると、「ほぼゼロ」から増え続け、今や約2割になったものがあります。それは、「使い捨て製品」です。シングルユースやワンウェイと呼ばれることもあります。ちょうど40年前くらいから、様々なものについて、便利な使い捨てのものが開発されてきたようです。紙おむつやレジ袋などもその典型です。加えて、このコロナ禍で、消毒のためのウェットティッシュ類、マスク類や手袋なども増えました。また、おむつについては、子供用が減っているものの、大人用が増えており、今後の高齢化の進展を考えると、今後も増加することが予想されます。後述するプラスチック対策にて、使い捨てプラスチック製品の使用削減が進められていますが、他方で、増えるものもあるのです。
このように得られた知見も活かしつつ、京都市では、ごみ削減に取り組んできました。ピーク時(2020年)より半減するという目標を立てていましたが、見事達成し、さらなる高みを目指しています。
それでも、まだまだ、もったいないごみもあります。その代表例が「食品ロス」です。家庭ごみの中で、重量で一番重いのは、食品類(生ごみ)で、約4割ありますが、そのうち、食べられるのに捨てられた「食品ロス」は3~4割程度あります。その中でも目につくのが、開封もされていないような「手つかず食品」です。期限を超えたものや、見るからに傷んだものもありますが、中には「どうして捨てられたのだろう?」と疑問を抱くものもあります。このように、私たちの消費生活には、まだまだ「もったいない」側面があるようです。
プラスチックは、資源循環を考える格好の素材と言えるでしょう。先述の通り、様々な使い捨て製品の開発や拡大に寄与してきた他、容器包装類の多くがプラスチックになりました。また、家電から家具、日用品、繊維類に至るまで、今や、ありとあらゆる製品がプラスチックで構成されているといっても過言ではありません。そのような中、特に途上国では、環境流出による汚染が深刻となり、世界の共有課題として認識されるに至り、数年前から、国内外で本格的な対策がとられ始めています。
プラスチックごみは、散乱による汚染に加え、かさばって収集効率が悪いこと、過去には有害成分を含むものもあったことなどから、ごみの世界では、以前より問題視されてきました。しかし、最近では、廃プラスチックの受け入れ規制や、マイクロプラスチックなどの課題も噴出し、複雑な様相となっています。炭素中立社会に向けて、化石資源を使っているという指摘もあり、バイオマス由来のバイオプラの開発も進められています。他方、プラスチックより重い代替素材になった際には、輸送にかかる燃料(現状、化石資源由来)が増えるのではないか、といった懸念もあり、改めてライフサイクルでの環境負荷の比較も必要となります。将来と過渡期と、それぞれ、対策を検討する必要があると思います。
どのような循環システムを、どのように設計していくかということも、非常に重要です。プラスチックについても、マテリアルリサイクルやケミカルリサイクルなど、様々なリサイクルがあり得ますが、プラスチックには、様々な種類があり、混合素材も多く、また、ごみ全体に言えることですが、いかに分別・回収するかといった課題を含め、検討は緒に就いたところです。
このような複雑な課題に対して、私たちのような、ごみ研究者のみならず、幅広い研究者や業界も乗り出してきました。例えば、素材製造から製品製造、販売、使用後に至るまで、情報管理をできるようにする製品デジタルパスポート(DPP)などの開発も本格的に始まろうとしています。日進月歩で進む開発に目が離せません。
今、私たちが注目しているのは、消費者の動向です。これまで通り、「ごみ」という事実を通じて消費生活を推測するだけでなく、消費者へのアンケート調査を行ったり、介入的に情報を与えて変化を観察したり、家庭や学校単位でプログラムを提供して変化を後押ししたり、様々な手法を組み合わせ、実態を知るだけでなく、どのようにすれば意識・行動に影響を与えることがでるのかも、アクションリサーチとして実施しています。
例えば、プラスチックの対策を、消費者目線で考えるために考案したチャートがあります。Ver1では、左右に消費者が考える各製品の「必要性」、上下には「避けやすさ」をとってみました。右上の象限にきたものは「いらないし、避けやすい」ことになりますので、これはすぐさま削減対象としやすいものと言えます。他方、逆の左下は「いるし、避けにくい」ということで、エッセンシャルと考えられますので、長期使用や水平リサイクル、バイオプラスチック化を検討する優先度が高いことになります。もちろん、あくまで、現状の消費者の意識や認識に基づくものですので、同時に、左から右へ、下から上への変化を促すことも重要です。
消費者の資源循環や購買に対する意識や知識に関する調査は、多くなされています。共通して言えるのは、意識や知識、理解の高まりです。先ほどの食品ロスについても、プラスチックについても、多くの消費者が、問題を認識し、また関心を持っていることがわかっています。しかしながら、それを行動に移す人となると、ごく限られ、いわゆるアーリーアダプターに限定されているというのが現状です。
資源循環、循環経済の実現に向け、消費者の動向には、世界的にも注目が集まっています。コロナ禍で、なかなか海外調査や視察が叶わなかったのですが、ようやく少しずつ足を運べるようになってきました。久しぶりに出向いた欧州では、売り場の変化に驚きました。品目にもよりますが、例えば目を引いたものの一つが、歯ブラシ売り場です。普通のスーパーや薬局でも、再生プラやバイオプラ、木製の柄の歯ブラシや、ブラシ部分だけ交換できるタイプの歯ブラシなどが並び、それが売り場面積の1~2割を占めるような状況でした。日本ではあり得ないと思います。私たちが実施したアンケート調査の速報結果によると、売り場でそのような商品の存在を知ることにより、商品に関心を持ったり、購入したりする傾向が高まることがわかってきました。「鶏と卵」論かもしれませんが、マーケットが持続可能な購買行動をリードできる余地は多いにあることが示唆される結果です。それに呼応できる消費者を生み、育てるため、教育等を含む誘導策の開発に力を入れていきたいと考えています。
まさに今、持続可能な循環型社会に向けて、消費動向も劇的に変わろうとしています。そこに居合わせ、プレーヤーとしてかかわれることは大変幸せなことと考えています。誰もがかかわることのできるテーマですので、是非みなさまも、消費者として、また専門的なプレーヤーとして変革に関与して頂ければと思います。
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