コラム 2023年4月19日

ESG投資の視点から見た資源循環ビジネスの価値創出【コラム】

 本コラムでは、ESG投資の視点から見た資源循環ビジネスの価値創出について、株式会社日本政策投資銀行の福井美悠氏にご解説いただきます。


 近年、サーキュラーエコノミー政策の加速やカーボンニュートラル実現に向けて、プラスチック資源循環ビジネス拡大の機運が高まっています。こうした動きをESG金融が後押ししており、企業は投資家の視点を理解し非財務情報を適切に開示することでESG資金を活用することが求められます。ESG投資の視点から、プラスチック資源循環ビジネスが企業の持続的成長につながるという価値創出の側面を提示することの重要性について説明します。

プラスチック資源循環ビジネスに取り組む背景

 プラスチックは、容器包装、自動車、家電などさまざまな場所で使われ、経済成長とともに大量生産・大量消費・大量廃棄されてきました。現在、世界のプラスチック生産量は年間約4億トンですが、用途の多くは製品寿命が短い使い捨ての容器包装向けであり、その大部分はリサイクルされずにごみとして廃棄され、海洋プラスチック問題などの廃棄物問題や資源の枯渇などが一層深刻化しています。

 また、プラスチックの原料はナフサなどの化石資源であるため、生産や廃棄段階においてCO2が発生します。2050年カーボンニュートラルの実現が叫ばれる中、化石資源からの脱却に対する要請が強まっており、気候変動対応の観点からも資源を有効活用するビジネスモデルへの転換が欠かせません。企業は、資源循環を収益化するビジネスモデルへ転換することで新たな価値を創りだし、競争優位の確保や差別化につなげる必要に迫られています。

循環性の高いビジネスモデルへの転換に向けたポイント

 資源循環を企業の成長戦略に位置づけ、ビジネスとして加速する際の鍵は何でしょうか。プラスチック資源循環ビジネスには、さまざまな課題が伴います。原料となる廃棄物の安定的・効率的な回収や、再生品の市場開拓(ブランド戦略)、循環技術の確立、収益性の確保などです。廃棄物を安定調達し、再生品の需要を創出するには、従来の一方通行型のビジネスモデルから循環型のビジネスモデルへと転換する必要があり、バリューチェーン全体での最適な循環モデルを設計する新たなサプライチェーン連携を促進していくことが肝要です。使用済みプラスチックの再資源化事業に取り組む共同出資会社「アールプラスジャパン」は、需要家であるサントリーが主導し、素材産業/メーカー、静脈産業などの異業種も巻きこみながら、あらかじめ需給マッチングをした循環モデルを設計することで、原料となる廃棄物の安定調達および再生品の市場を開拓する循環型ビジネスモデルの好例といえるでしょう。

 また、再生品のブランディング向上による新たな価値創出を図るには、原材料のトレーサビリティを確保し、循環による価値を訴求するデジタル技術の活用が有効です(画像2-2)。例えば旭化成では、ブロックチェーン技術を活用しプラスチック資源循環を可視化する「Blue Plastics」プロジェクトに取り組んでいます。現在スマートフォンアプリのプロトタイプを開発し、実証実験を行っており、製品の購入場面ではリサイクル率の確認が可能となるほか、廃棄(リサイクルボックスへの投入)時にはポイント付与による環境貢献体験が可視化できます。また、「旅するプラスチック」と名付けてリサイクルチェーンを追って見ることができるなど、資源循環という切り口から、新たな価値提供を試みています。

トレーサビリティ確保に向けたブロックチェーン技術の活用(出所:日本政策投資銀行作成)

拡大するESG投資を踏まえた非財務情報開示のポイント

 こうしたサステナブルで新たなビジネスモデルへの移行に向けては、金融を活用する動きがあります。環境、社会、ガバナンスに代表される非財務情報に着目したESG投資は、欧米を中心に2010年代に急拡大し、2020年における世界の投資残高は約35兆ドル、総運用資産に占める割合は約36%に高まっています。急拡大するESG資金を企業が活用するには、投資家の視点を理解し、非財務情報について適切な情報開示や説明を行うことが求められています。

 資源循環に関する情報開示・対話ガイダンスとして、政府は「サーキュラーエコノミーに係るサステナブル・ファイナンス促進のための開示・対話ガイダンス」を2021年1月に発表しました。「価値観」、「ビジネスモデル」、「リスクと機会」、「戦略」、「指標と目標」、「ガバナンス」の6項目について、開示・対話が推奨されています(画像3-2)。例えば「ビジネスモデル」では、バリューチェーン上の自社の立ち位置から競争優位・強みが発揮できる領域において、社会課題を解決しながら成長していくという「事業機会(価値創出)」の側面を提示していくことが効果的とされています。例えば住友化学は、環境負荷低減技術によって生産された資源循環型プラスチック製品を「Meguri™」というブランド名で展開することで差別化しており、プラスチック資源循環ビジネスが企業の持続的成長につながるという価値創出の側面を表現しています。

開示・対話のポイント ~6つの着眼点~(出所:経済産業省、環境省 「サーキュラー・エコノミーに係るサステナブル・ファイナンス促進のための開示・対話ガイダンス」)



 世界がカーボンニュートラルを目指す2050年までには、世界的な人口増加や環境汚染、資源枯渇、気候変動などに伴う経営リスクは一段と高まるとみられます。企業は、循環型社会やカーボンニュートラルを実現しながら、長期の成長戦略を検討する必要があります。新たな価値観や目指すべき社会に適応した中長期の経営戦略を描き、開示していくことは、企業自身のレジリエンス向上に加え、ESG投資家からの有利な資金調達にもつながります。資源循環をテーマに、新たな価値創出を目指す企業の長期成長戦略に期待いたします。


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この記事の作成者

福井 美悠 氏 株式会社日本政策投資銀行 産業調査部 副調査役
ご経歴 2009年日本政策投資銀行入行。シンジケーショングループを経て、2012年よりサステナブルソリューション部にて、企業の非財務情報を評価する環境格付業務等に携わり現在も兼任。2019年より現職。化学業界におけるサステナビリティ課題として、プラスチック資源循環、カーボンリサイクル、水素などを主な調査テーマとする。

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