本コラムでは、廃棄物処理法における通知の位置付けや法令との関係性について、BUN環境課題研究事務所の長岡文明氏にご解説いただきます。
国民は、国からの「通知」というものに、どの程度従わなければならないものでしょうか? 「通知」は、いくら国の偉い役職の人が発出したものであっても、制度上は大臣告示として官報に載った訳でもないし、閣議決定された訳でも、ましてや国会で決議されたわけでもありません。
その制度に携わっている単なる一公務員が「こんなふうにやってね」とお手紙を出したという程度の位置付けです。
したがって、国の公式な制度として認められている訳ではなく、極めて「脆弱な制度」と言えるでしょう。
では、その程度の「お知らせ」なのに、どうして世の中全体がその「通知」のとおりに動くのでしょうか?
法律は国会、すなわち国民の総意のうえで作られたルールであり、罰則も制定することが可能です。政令とは閣議決定されたルール、省令とは所管大臣が決裁したルールであり原則として罰則を規定することはできません。そのため、多くの政令、省令は法律を受ける形で制定されています。
「通知」はこういった法令を補完するために発出されることがほとんどです。
そのため、「通知」に従わないからと言って、直接罰を受けるというような性格のものではありません。
廃棄物処理法も「廃棄物処理法」という法律のもとで、いくつかの関連する政令や省令を付属しています。
たとえば、産業廃棄物委託契約書はまず法律第十二条第6項で「事業者は、前項の規定によりその産業廃棄物の運搬又は処分を委託する場合には、政令で定める基準に従わなければならない。」と規定し、政令第六条の二で「法第十二条第六項の政令で定める基準は、次のとおりとする。(途中略)四 委託契約は、書面により行い、当該委託契約書には、次に掲げる事項についての条項が含まれ、かつ、環境省令で定める書面が添付されていること。」としていくつかの事項を規定し、その4号へにおいて「その他環境省令で定める事項」として、省令第八条の四の二で「令第六条の二第四号ヘの環境省令で定める事項は、次のとおりとする。 一 委託契約の有効期間(以下、九号まであり。)・・・」
とこのように、具体的な契約項目まで規定しているのです。
しかし、それでも現実にはどのような内容を契約書に記載してよいかわからない場合も多く、そこで過去において何回か通知が発出されています。
このように、法律→政令→省令→通知とランクを変える形で国民に示し、運用されている制度が一般的です。
政省令の規定が無く、法律のざっくりとした規定を「通知」で相当踏み込んで運用している制度もあります。「許可不要制度」の中の「専ら再生4品目」もその一つと言えるでしょう。
法律の許可条文の中に「ただし、・・・専ら再生利用の目的となる廃棄物処理を業として行う者・・・については、この限りでない。」と規定しています。法律では「専ら再生利用の目的となる廃棄物」としか規定していないのですが、これを通知では「古紙、くず鉄、あきびん類、古繊維」と4品目に限定しているのです。
第3 産業廃棄物に関する事項
4 産業廃棄物処理業
(2) 産業廃棄物の処理業者であっても、もっぱら再生利用の目的となる産業廃棄物、すなわち、古紙、くず鉄(古銅等を含む)、あきびん類、古繊維を専門に取り扱っている既存の回収業者等は許可の対象とならないものであること。
専ら再生4品目については下記の記事でも解説していますので、併せてご覧ください。
専ら業者とは
法律で規定しているにもかかわらず、現実的な対応としては通知による運用が行われている例として「総合判断説」があります。
法律第二条で「この法律において「廃棄物」とは、ごみ、粗大ごみ、燃え殻、汚泥、ふん尿、廃油、廃酸、廃アルカリ、動物の死体その他の汚物又は不要物であつて、固形状又は液状のものをいう。」と規定しているのですが、通知(行政処分指針(最新、令和3年4月14日))では、「占有者が自ら利用し,又は他人に有償で譲渡することができないために不要になったもの。以下の事項から総合的に判断する」として「①物の性状」等5つの要素を挙げています。(なお、総合判断説については「おから裁判」として有名な最高裁判決を大きな根拠としています。)
(2) 廃棄物該当性の判断について
① 廃棄物とは、占有者が自ら利用し、又は他人に有償で譲渡することができないために不要となったものをいい、これらに該当するか否かは、その物の性状、排出の状況、通常の取扱い形態、取引価値の有無及び占有者の意思等を総合的に勘案して判断すべきものであること。
総合判断説については、ぜひ下記の記事もご覧ください。
廃棄物該当性と総合判断説
法令の条文では一言も規定していないにもかかわらず、通知のみにより運用されている制度の一つに「下取り」があります。前述の「専ら再生4品目」は曲がりなりにも根拠とする法令がありましたが、「下取り」は全く根拠とする法令条文がありません。制度の根幹とも言える「許可制度」について、通知により「不要」として扱っている運用です。
新しい製品を販売する際に商慣習として同種の製品で使用済みのものを無償で引き取り、収集運搬する下取り行為については、産業廃棄物収集運搬業の許可は不要であること。
下取りについては、ぜひ下記の記事もご覧ください。
廃棄物の下取りとは
こういった制度の根幹に関わる「通知」とともに、具体的な疑問に答える内容の通知も数多く存在します。
たとえば、昭和47年1月10日に発出された通知「廃棄物の処理及び清掃に関する法律の疑義について」(環整第2号)では、「処分」の用語定義や最終処分の方法、施行令第一条第二号に規定する輸入木材の卸売業に係る木くずの考え方などについて、一問一答式で解説しています。
問1 処分の用語の定義を明示されたい。
答 中間処理及び最終処分の意である。なお、中間処理には、焼却、脱水、破砕、圧縮等があり、最終処分には、埋立処分と海洋投入処分がある。
通知の中にはすでに廃止されたものも多く、現在では(一財)日本環境衛生センターが刊行している「廃棄物処理法の解説」など一部の文献の中でしか確認できないものもあります。
実務上参考になる通知については、過去に紹介した書籍「廃棄物処理法の重要通知と法令対応 改訂版」もぜひご覧ください。
「廃棄物処理法の重要通知と法令対応 改訂版」
また、大阪府をはじめとするいくつかの自治体では、過去に発生した疑義応答を公式HP上に掲載しているところもあるので、併せて参考にしてみてください。
私は、根本はやはり「法令」にあると思っています。
法令に根拠を置かない「通知」はやがて歪みが出てきて大抵は長続きしません。
(「下取り」のように長続きしている通知もありますが・・・)
そのような「通知」ではありますが、その「法令」をどのように「運用」したらいいのか、というレベルになると、途端に「通知」が威力を発揮します。
こういったことを理解したうえで、「通知」を脱法的に悪用すること無く、不都合が起きないように、現状に合わせた運用を心がけることが大切かなぁと思っています。
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