爆発性や毒性、感染性といった性状を持つために、特に注意して取扱う必要のある特別管理産業廃棄物。前回は「引火性廃油」、「腐食性の廃酸・廃アルカリ」、「感染性産業廃棄物」の3つの廃棄物種類についてご説明しました。今回は、その他の特別管理産業廃棄物の種類について紹介していきます。
前回の記事でも取り上げたとおり、特別管理産業廃棄物は、大きく「引火性廃油」、「腐食性の廃酸・廃アルカリ」、「感染性産業廃棄物」、そして「特定有害産業廃棄物」の4つに分類されます。引火性廃油は、引火点が70℃未満の廃油、つまり揮発油類や灯油類、軽油類が該当します。腐食性の廃酸はpHが2.0以下の廃酸を、腐食性の廃アルカリはpHが12.5以上の廃アルカリをそれぞれ指します。さらに、感染性産業廃棄物は、病院や診療所、介護老人保健施設などの医療関係機関などから排出され、感染性病原体が含まれていたり、付着したりしている廃棄物のことです。
これら4つの分類のうち、「特定有害産業廃棄物」はさらに細かく分類することができます。具体的には、「PCB廃棄物」、「廃水銀等」、「廃石綿等」、そして「有害金属等を含む産業廃棄物」の4つの品目に分かれます。なお、特定有害産業廃棄物には、下水道法施行令第13条の4の規定により指定された汚泥である「指定下水汚泥」という品目もありますが、現在は指定されていません。
まとめると、以下の図のようになります。個別の廃棄物種類について、次章から詳しく見ていきましょう。
まず、PCBとはポリ塩化ビフェニル(Poly Chlorinated Biphenyl)の略で、油状の化学物質を指します。PCBは、水に溶けにくかったり、電気絶縁性が高かったりといった特徴を持ち、化学的にも安定していることから、これまで様々な用途で利用されてきました。身近なところでは、電柱についている柱上変圧器が分かりやすい例です。これは、発電所や変電所から送電された高圧電流を一般家庭に適した電圧に変えるための機器のことです。
PCBは、優れた化学物質であると同時に、脂肪に溶けやすいという性質も持ちます。そのため、慢性的に摂取することにより徐々に体内へと蓄積し、目やにや色素沈着、倦怠感といった症状を引き起こすリスクも孕んでいます。
PCBの有害性が大きく取り上げられるきっかけになったのが、1968年に発生した「カネミ油症事件」です。福岡県に本社を持つカネミ倉庫株式会社が製造したライスオイル(米ぬか油)の中に、脱臭工程で熱媒体として使用されていたPCBが混入するという大規模な食中毒事件が発生しました。その後PCBの製造は中止になり、民間主導による処理の動きも見られましたが、地元住民の理解が得られないという理由から、30年ほどは処理が進まない状況が続きました。最終的には、長期保管による紛失や漏えいといった環境汚染の進行が懸念されることから、国が中心となりPCB廃棄物の処理が進むこととなりました。
現在では、PCBのうち高濃度のものは、国主導でJESCO(中間貯蔵・環境安全事業株式会社)という政府全額出資の特殊会社が、低濃度のものは、民間主導で各認可・許可業者が地域ごとの処理期限を定めて処理を行っています。
水銀は、人為的に排出されるものから自然に発生するものまで、様々な排出源から環境に排出されており、特に人為的排出が大気中の水銀濃度や堆積速度を高めていると言われています。大気中で世界中を移動し循環するばかりでなく、生物体内への蓄積性も有しております。また、水俣病で知られるとおり、両手や両足の先端で、触れた感覚や痛覚などを認識しにくくなるなどの神経系の症状を引き起こすというような、人体への深刻な影響も問題となっています。こうしたなか、2013年に採択された「水銀に関する水俣条約」を皮切りに、人為的に排出される水銀の削減と根絶に向けた世界的な取り組みが行われています。日本国内においても、廃棄物処理法をはじめとした関係法令が整備されています。
特別管理産業廃棄物として廃棄物処理法で定められている「廃水銀等」は、次のとおりに分類されています。
・廃金属水銀等のうち、特定施設において生じた廃水銀等
・廃金属水銀等のうち、水銀等が含まれている物や水銀使用製品廃棄物から回収した廃水銀
・水銀汚染物のうち、特定の施設から排出されるもので、水銀の溶出量が判定基準を超過するもの
すでに多くの製造工場で生産が終了していますが、たとえば蛍光管の中に入っている気化水銀や、液化水銀入りの体温計などの製品入っている水銀などが「廃水銀等」になります。
石綿は、アスベストともいわれています。保温性や断熱性に優れ、丈夫で変化しにくいという特性から、1970年代~1990年代にかけて大量に輸入され、建材として主に使用されてきました。しかし、その発がん性が問題となり、現在では石綿を含む製品の製造や使用は原則禁止されています。一方で、現在使用中の製品が廃棄されたり建築物の解体されたりする場面など、今なお廃棄物として発生しており、解体や除去後の処理に関する関連法規が整備されています。
廃棄物処理法では、特別管理産業廃棄物としての「廃石綿等」と、通常の産業廃棄物としての「石綿含有産業廃棄物」の2つの分類があり、それぞれ処理基準が設定されています。このうち、廃石綿等は「飛散するおそれのあるもの」として、廃棄物処理法施行規則の第1条の2第9項で定められているほか、環境省が出している「石綿含有廃棄物等処理マニュアル」でも詳しく解説されています。
廃石綿等とは、次に掲げる①~⑤をいう。
① 建築物その他の工作物(以下「建築物等」という)に用いられる材料であって石綿を吹き付けられたものから石綿建材除去事業により除去された当該石綿
② 建築物等に用いられる材料であって石綿を含むもののうち石綿建材除去事業により除去された次に掲げるもの
イ.石綿保温材
ロ.けいそう土保温材
ハ.パーライト保温材
ニ.人の接触、気流及び振動等によりイからハに掲げるものと同等以上に石綿が飛散するおそれのある保温材、断熱材及び耐火被覆材
③ 石綿建材除去事業において用いられ、廃棄されたプラスチックシート、防じんマスク、作業衣その他の用具又は器具であって、石綿が付着しているおそれのあるもの
④ 特定粉じん発生施設が設置されている事業場において生じた石綿であって、集じん施設によって集められたもの
⑤ 特定粉じん発生施設又は集じん施設を設置する工場又は事業場において用いられ、廃棄された防じんマスク、集じんフィルタその他の用具又は器具であって、石綿が付着しているおそれのあるもの
(参)規則第1条の2第9項
有害金属等を含む産業廃棄物は、特定の排出源から排出される産業廃棄物で、金属等の有害物質の量が判定基準を超えるものや、トリクロロエチレンなどの有害物質を含んだ廃溶剤(廃油)のことを指します。有害金属等を含む産業廃棄物であるかどうかは、「廃棄物処理法施行規則第1条の2」や、「金属等を含む産業廃棄物に係る判定基準を定める省令」で定められた基準に基づきその該非を判定します。産業廃棄物の種類でいうと、「燃え殻」、「ばいじん」、「鉱さい」、「汚泥」、「廃油」、「廃酸」および「廃アルカリ」の7品目となります。これら7品目のそれぞれについて、有害物質ごとに判定基準が設けられています。
まとめると、特別管理産業廃棄物は以下のとおりに分類されます。
前回に引き続き、特別管理産業廃棄物の種類として、「PCB廃棄物」、「廃水銀等」、「廃石綿等」そして「有害金属等を含む産業廃棄物」に着目してご説明しました。排出事業者責任において、対象の廃棄物がどの種類に該当するか見定めたうえで、適正に処理することが重要でしょう。