産業廃棄物の処理を他者に委託する際には、政令で定める基準に従わなければならないと廃棄物処理法で定められています。このことを一般に「委託基準」といいます。今回のトピックでは、委託基準の一つである産業廃棄物処理業の許可制度について触れていきます。
一般に、産業廃棄物の処理は他者へ委託することが多いですが、実は、廃棄物処理法では、産業廃棄物の処理について定められている章の冒頭で、排出事業者が自ら処理しなければならないと規定されています(廃棄物処理法第11条第1項)。法律では、委託処理に先だって自ら処理することが規定されているのです。
しかし、現実的には自分が排出する産業廃棄物をすべて自ら処理することは容易ではありません。その場合、産業廃棄物の処理を他者へ委託します。処理を他者へ委託するときには、一部の例外を除き、産業廃棄物処理業の許可を受けた業者に委託しなければなりません。また、産業廃棄物の収集運搬を委託する際には収集運搬業の許可を受けた業者に、処分を委託する際には処分業の許可を受けた業者に、それぞれ委託する必要があります。このことは、廃棄物処理法第十二条第五項において定められています。
事業者は、その産業廃棄物を自ら処理しなければならない。
5 事業者(略)は、その産業廃棄物(略)の運搬又は処分を他人に委託する場合には、その運搬については第十四条第十二項に規定する産業廃棄物収集運搬業者その他環境省令で定める者に、その処分については同項に規定する産業廃棄物処分業者その他環境省令で定める者にそれぞれ委託しなければならない。
産業廃棄物の収集運搬業者や処分業者が業を行うためには、都道府県知事や政令市長(以下、「都道府県知事等」と表記します)の許可を受けなければなりません。都道府県知事等は、産業廃棄物の処理業を行おうとする者の申請に対して、同法で定める様々な要件を満たしている場合に、業許可を与えるものとされています。排出事業者は、この業許可を受けた処理業者へ委託することが必要となります。
産業廃棄物(略)の収集又は運搬を業として行おうとする者は、当該業を行おうとする区域(運搬のみを業として行う場合にあつては、産業廃棄物の積卸しを行う区域に限る。)を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならない。(略)
6 産業廃棄物の処分を業として行おうとする者は、当該業を行おうとする区域を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならない。(略)
産業廃棄物処理業の許可証には、産業廃棄物のものと特別管理産業廃棄物のものがあり、それぞれ収集運搬業と処分業に分かれています。さらに、収集運搬業の場合は積替え保管の有無で分かれており、処分業の場合は焼却や破砕などの中間処理業なのか、それとも埋め立てなどの最終処分業なのかで分かれています。まとめると、以下の10種類に分類することができます。
産業廃棄物を特別管理産業廃棄物の許可業者に委託したり、反対に、特別管理産業廃棄物を通常の産業廃棄物の許可業者に委託したりすることは、無許可業者への委託となってしまいます。そのため、排出事業者が廃棄物の処理を委託する際には、自分が排出する廃棄物の分類や委託する処理業者の事業範囲を、しっかりと確認することが重要です。処理業者としても、排出事業者から受託した処理の内容が自分の事業範囲に適合していないと、事業範囲を無許可で変更したことになってしまうので、十分に注意する必要があります。
また、先述のとおり、それぞれの業許可証は都道府県知事等によって発出されます。2022年4月現在、業許可証を発出する自治体の数は129にも上ります。2021年4月には、長野県松本市と愛知県一宮市がそれぞれ中核市へ移行したことに伴って、両市が業許可証を発出する自治体に加わりました。2022年は中核市へ移行する都市がありませんので、業許可を発出する自治体の数は昨年同様に129となります。中核市の移行などに伴う業許可発出自治体は、近年は毎年2、3件ずつ増加しています。
愛知県西尾市から排出された産業廃棄物を、神奈川県藤沢市にある処分場で処理する場合を想定してみましょう。このときに必要なのは、どこの自治体の許可証でしょうか。排出事業場から直接処分場へ搬入される場合、収集運搬業については、荷積み地の「愛知県」と荷卸ろし地の「神奈川県」の業許可証が必要となります。また、処分業については、処分施設のある「神奈川県」の業許可証が必要となります。
今度は、愛知県名古屋市から排出された産業廃棄物を、神奈川県横浜市にある処分場で処理する場合をみてみましょう。このときに必要なのは、どこの自治体の許可証でしょうか。今回、荷積み地は政令市である「名古屋市」で、荷卸ろし地も政令市である「横浜市」です。いずれも業許可を発出する自治体に該当しますので、これらの自治体の業許可証が必要なのでしょうか。
実は、排出事業場から直接処分場へ搬入される場合、収集運搬業については、荷積み地の「愛知県」と荷卸ろし地の「神奈川県」の業許可をもって処理業を行うことが可能です。これは、平成23年の産業廃棄物処理業許可の合理化に伴って、県知事の許可を取得している産業廃棄物収集運搬業者は、県許可の事業範囲内で、県内全域において業を行うことができるようになったことによります。
一方で、処分業については、政令市である「横浜市」の業許可証が必要となります。
続いて、愛知県名古屋市から排出された産業廃棄物を、静岡県浜松市にある積替え保管施設を経由して、神奈川県横浜市にある処分場で処理する場合を考えてみましょう。積替え保管施設を経由して処分事業場へ搬入される場合、収集運搬業については、荷積み地の「愛知県」、荷卸ろし地の「神奈川県」に加え、積替え保管施設がある「浜松市」の業許可証が必要となります。積替え保管施設を経由する場合は、先述した平成23年の産業廃棄物処理業許可の合理化にかかわらず、その積替え保管施設が政令市内にある場合、政令市の業許可が必要です。
また、処分業については、排出事業場から直接処分場へ搬入される場合と同様に、処分施設のある「横浜市」の業許可証が必要となります。
今回のトピックでは、排出事業者が産業廃棄物の処理を他者に委託する際に確認する必要のある産業廃棄物の業許可証について取り上げました。自分が排出する産業廃棄物の分類や種類、排出から処分場までの処理経路などをしっかりと確認したうえで、適切な処理委託をすることが重要です。